第20回

イン イクスペンシブ(in expensive)な宿は安宿でない


 取材を受けて「これぞジャパニーズスタイルの安宿です」と書かれると、安宿という言葉になんとなく抵抗を感じます。
 ところで、私どもを利用する外国のお客さまは、個人旅行の観光客がほとんどで、皆さんガイドブックを持ってきます。
 「これにすすめられていたから来たよ」といって本を見せてくれます。そこで、私もいろいろなガイドブックを読んでみました。その中の一冊フロマーズ(Frommers)の宿泊施設の項を見てみると、銀座や上野などの地区ごとに宿泊料金別に分けられています。
 料金は、「べリーイクスペンシブ」(very Expensive)
      「イックスぺンシブ」(Expensive)
      「モデレート」(Moderate)
      「インイクスぺンシブ」(In Expensive)の四段階です。

 私どもは最後のインイクスぺンシブの項に紹介されているので、安宿の意味かと思って辞書を引いてみました。ところが、「インイクスぺンシブ」には、費用をおさえるという意味があり、「安くて粗悪な」の意味がある「チープ」(cheap)とは区別されていることを知りました。
 フロマーズのガイドブックのライターは、実際に私どもに宿泊して書いてくれました。 
 「澤の屋は、古い町並みの残る住宅街にあり、家族経営で、息子の獅子舞をみることができる。また、町の人達との交流やイベントへの参加をすすめられる」と書かれています。 
 そしてベーリイクスぺンシブの項の帝国ホテルさんは、東京で一番知られたホテルで、非の打ちどころのないサービスと設備について詳しく書かれています。

 ガイドブックで驚かされたのは「この宿は、冷房音がやかましく、そのうえ主人は親切でないから、親切を求めてなら行かないほうが良い」と書かれた宿があったことです。
 日本ではこういう書き方のガイドブックを見たことがないので、外国のお客さまに聞いてみると「消費者のために書いてあるのだから、良いことも悪いことも書くのが当然でしょう」と言われて、だからこそ外国のお客さまはガイドブックを信頼しているのだと思いました。

 外国のお客さまに分かりやすい宿泊情報を提供するためといって、ホテルや旅館の格付けを検討する動きがでています。私は、格付けとか五ッ星は上下関係であり、星五つは良い宿、星一つは良くない宿とおもはれるので、一つ星にはなりたくありません。 
 ところが、外国のガイドブックでは費用がかかるかどうかで横並びに紹介されていますから、インイクスぺンシブに入れられることは何の抵抗もありません。
 その上、そこから私どもの宿を選んで、こんなに多くの外国のお客さまが来て下さっています。
これからも、できるだけ宿泊料をおさえて、インイクスぺンシブな宿として胸を張ってやって行こうと思っています。

 

日本観光旅館連盟 日観連月報より 

  

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