第18回

 ホスピタリテイは、疲れない


 若い頃、お客さまに用を言い付かって「分かりました」と答えると、義母に「それは、お客さまと対等のことばですよ”かしこまりました”と言いなさい」と注意されました。
 銀行員から養子に入った私にとって、旅館の仕事は気苦労の多いものでした。
「上げ膳、据え膳で大名のような待遇を期待して旅館に来るんですよ」とか「最高のサービスは、お客さまが望むことを言われる前にやってあげることです」と言われて、サービスについてどうすればいいのか悩んだりもしました。
 一方、酔ったお客さまに無理なことをいわれて、お金を返しても帰ってもらいたいと思ったこともありました。

 その後、日本のお客さまの減少で、外国のお客さまを受け入れて二十年になります。
毎日、忙しい日を送っていますが、そんんなに疲れないことに気がつきました。
 そんな時、立教の大学院の幸田さんが、私どもが外国のお客さまからいただいた礼状を分析してくれました。礼状の「サンキユー、フオー」のあとに続く言葉が何んであるか調べたら「ホスピタリテイ」と「カインドネス」が多く、「サービス」という言葉がほとんどなかったそうです。
 外国のお客さまに満足してもらえなかったら廃業と覚悟していまいしたので一生懸命に対応してきました。でもそれがサービスでなくホスピタリテイと受け取られていたとは、私には思いがけないことでした。

 立教の前田先生の、サービスは奴隷が語源で、主人を満足させる滅私奉公で、あらゆる要求に応じる上下関係からなり立っている。ホスピタリテイは病院のホスピタルからきているので、看護婦さんが患者さんをもてなすような待遇で立場は対等ですという話を思い出しました。
 外国のお客さまは、宿泊料の中に人的サービスは入っていないと考えているようで、そんなに無理なことは求められません。
 「貴方は、たまたま宿の主人、私はここに泊りに来た客で立場は対等」と威張ることもありません。
 特に、欧米の人はほめ上手です。「グッド」「パーフエクトリー」など、たくさんのほめ言葉を言ってくれます。そして「また来るよ」と言って何回も来てくださったり、友達を紹介してくれます。まるでお客さまに喜ばされて商売をさせてもらっているようです。
 こんな外国のお客さまに対して、私はどうしても対等だとは思えないので、対等より少し下という気持で、毎日お迎えしています。

日本観光旅館連盟 日観連月報より 

  

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