第21回
無駄なお金は使いません。
旅先では、つい財布の紐がゆるむわたしにとって、外国のお客さまのお金の使い方には驚かされます。
新宿に行く方法を聞かれて「地下鉄でお茶の水駅に行き、JRの快速に乗り換えれば30分で行けます」と教えてあげました。
帰ってきたその方に怒られました。
「貴方の教え方で行ったら切符が2枚必要だった。私は自分で考えて地下鉄を乗り換えて帰ってきたら切符は1枚で運賃は半分だった」
「でも早く行けたでしょう」と言うと「私には十分時間があるから、急ぐ必要はない」と言われてしまいました。
自動販売機も缶ビールの値段を、近くの酒屋さんの店頭のそれよりも20円高く設定しました。しかしお客さんが外から買ってきてしまうので、自動販売機では売れないので同じ値段に設定し直しをしました。
私どもの洋朝食は、食堂でトーストと卵料理で300円、コーヒー、紅茶は無料ですが、自分でパンを買ってきて無料のコーヒーですます人もいます。
絵はがきは1組5枚では売れません。必要な枚数しか買いませんからバラ売りにしています。
天ぷらを天ぷら屋さんで食べると高いけど、そば屋さんで天ぷらそばを頼むと安くて両方食べられると言います。
夕食に幕の内弁当を買ってきて食堂で食べて良いかと聞かれるので、どうぞと答えると、日本のいろいろな料理を一度に味わえるから素晴らしいと言ってくれます。
持ち込みはどうぞといってますから、「ナイフ」や「皿」にはじまって「どんぶり」や「しょう油」、はては「はし」まで欲しいという人がいます。
家内とスイスに行って泊めてもらったラーツ夫妻は13室もある豪邸でした。ご夫妻が来館する時は、上野駅から30分の道のりを、キャリーに重い荷物を乗せて歩いてきます。決してタクシーに乗りません。ヨーグルトが12円安いからと6分ほどの近くの根津銀座ではなく15分もかかる谷中銀座まで買いにゆきます。ところが奥さんが水彩画を始めたと言って、何万円もする和紙や筆を買ってきます。歌舞伎や能にも必ず出掛けます。
スエーデンの二ルソンさんは交通費が高いからとおりたたみ式の自転車を持参し、食事は出身校の東大の学生食堂でとって東京はそんなに物価は高くないよと言っています。
ドイツのエッカードさんは、年に一度泊まりに来てくれますが、直行便だと高いからとオランダに行って遠回りでいらっしゃいます。
フランスの人に「一日分の旅行費は、自分の年収を365日で割った金額としている」と言われましたが、旅は日常生活の延長だから無駄なお金を使わないのだと思いました。
慣れると外国のお客さまは、手がかからなくて、こんな楽なお客さまはいませんが、いざ売り上げを上げようと思うとこんなに手ごわいお客さまはいません。
日本観光旅館連盟 日観連月報より